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和歌山地方裁判所新宮支部 平成6年(わ)21号 判決

主文

被告人山本武重を懲役一年二月に、被告人舩野新也を懲役六月にそれぞれ処する。

被告人山本武重に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(本件犯行に至る経緯)

被告人山本武重は勝浦港に入港した漁船の船員相手に日用品等を販売していたが、その関係で船員の森幸儀と知り合うようになり、同人に金員を貸し付けたりするようになったが、平成三年五月ころ同人が同被告人に対する約六〇万円の借金を返済しないまま所在が分からなくなったため、同人の居所を捜していた。被告人山本はかねて右森を通じて、同人に金員を貸し付けていた中島光明を知っていたところ、同人も右森の所在を分からなくなって困っていた様子であったため、右中島に対してお互いに右森を見つけたときには連絡しあおうと約束していた。ところが、右中島が度々右森に会っていると聞いていたにもかかわず、右中島から何の連絡もなかったことから、約束違反をしている同人に対しいらだちがつのっていた。

被告人山本は平成三年一〇年六日に右森の乗った船が勝浦港に寄港していると聞いたことで同人を捜すため、たまたま同被告人方にいた西〓八郎と一緒に自宅を出て、途中太地町内の病院に入院していた被告人舩野新也にも手伝ってもらおうと考え、同病院に立ち寄った。同被告人は以前から被告人山本と一緒に酒を飲んだりするなどの親しい付き合いをしており、同被告人が右森を捜している事情も知っていたことから、同被告人とともに右森を捜すこととなり、右病院を出た。被告人らは途中被告人舩野の知り合いである尾崎教勉、南智紀をも加え計五名で右森の乗船していた船の船主方を訪れたりしたが、右森を見つけるに至らなかった。被告人山本は次第にいらだちがつのり、右森の居所を右中島に直接問い質し、それでも右森の居所が聞けなかった場合には、右中島から約束違反をしたことに因縁をつけて現金を脅し取ってやろうと考え、那智勝浦町内の飲食店から右中島方に電話をかけ、右森の所在を尋ねたところ、右中島において知らないと答えたものの、同被告人は納得できず、直接右中島に会おうと考え、結局被告人両名ら五名で右中島宅を訪ねることとなった。

(罪となるべき事実)

被告人両名は、ほか三名とともに平成三年一〇月六日午後八時ころ、和歌山県東牟婁郡古座町西向二〇六番地の一所在の中島光明(当時六〇歳)方に赴き、同方応接間で被告人ら五名が並んで座り、相対して座っている右中島に対し、被告人山本武重において森幸儀の居所を質したが、右中島が明確な答えをしないことに立腹し、この際同人に因縁をつけて現金を脅し取ってやろうと企て、右森に貸し付けている金員の明細を記載したメモを示しながら、「わし、森にこれだけ貸したあるんや。あんたわしに嘘ついたさかい森からこの金取れなんだんや。分かってまんのか。」等と申し向けたり、「あんた、この六〇万円の金わしに払うんあたり前やで。約束破ったのあんたやで。あんたが責任持ってちゃんと払ってくれるか。わし承知できへんで。」等と申し向けたところ、この被告人山本の言を聞いていた被告人舩野新也において、被告人山本が右森のことにかこつけて右中島から金員を脅し取ろうとしていることを察知し、これに加担しようとして同被告人と共謀の上、被告人舩野において右中島に対し、「借りた金は返さなあかんのや。返すのはあたり前や。」とか「連絡しないのはお前が悪いからお前責任持て。」等と申し向けて被告人山本とともに金員の交付を要求し、夜間五名の者が自宅を訪れてきたことに困惑している右中島をして右要求に応じなければ同人の身体等にどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖させ、よって、即時同所において、金三〇万円の金員の交付を約束させた上、同月八日午前一一時ころ、同郡太地町大字太地一五七七番地の一所在の右中島経営の湯葉製造工場で、被告人両名において同人から現金二〇万円の交付を受けて、これを喝取したものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯前科と確定裁判)

被告人舩野新也は、

(一)  (1)昭和六〇年一一月二二日、和歌山地方裁判所新宮支部で覚せい剤取締法違反、遺失物等横領の各罪により懲役一年二月、三年間執行猶予(保護観察付)に、(2)同六一年一〇月六日、津地方裁判所熊野支部で暴行、覚せい剤取締法違反の各罪により懲役一〇月にそれぞれ処せられ、同月三一日津地方裁判所で右(1)の執行猶予を取り消され、同六二年八月五日右(2)の刑の執行を、同六三年一〇月五日右(1)の刑の執行をそれぞれ受け終わり、

(二)  平成三年九月一二日、和歌山地方裁判所田辺支部で暴力行為等処罰に関する法律違反、逮捕、監禁、暴行の各罪により懲役八月に処せられ、右裁判は平成四年二月一五日確定した

ものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書(検乙二九のもの)、右各判決書謄本(検乙一〇、一一のもの)及び同被告人の司法巡査に対する平成四年一〇月五日付供述調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人山本武重について

同被告人の判示所為は刑法六〇条、二四九条一項に該当するところ、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人舩野新也について

同被告人の判示所為は刑法六〇条、二四九条一項に該当するところ、前記の前科があるので同法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、有罪は前記確定裁判のあった暴力行為等処罰に関する法律違反、逮捕、監禁、暴行の各罪と同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない本件恐喝罪について更に処断することとし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処することとする。

なお、訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

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